空と山と暮らし

パラグライダーと山歩きの記録、ときどき家と暮らし。

Kitto新ハーネスでの初フライト - ポッドハーネスについて

2022年12月10日に朝霧へ。ここで先月購入した新ハーネスに乗りましたので、今回はハーネスのことを。

─ 目次 ─

冬晴れの朝

12月に入り快晴の日が多くなってきました。ハーネス初乗りの今日も雲一つない快晴で、気持ちの良い朝を迎えられました。

ちょうど、2つのタイプのハーネスの写真が撮れましたので、記事ではそのことについても触れてみたいと思います。

ハーネスの種類

上の写真の左側がポッドハーネスで、足元を囲むポッドがくるぶしまで伸びています。右側が普通ハーネス(いわゆるポッドレスハーネス)で、足元スッキリですね。フライト用ハーネスにはこのポッド有無以外にも、シートボードorハンモックの座り方の違い、レスキューのフロントコンテナ/サイドポケット、軽量/重量ハーネスなどなど、他にも色々なタイプ分けがあります。見た目で一番分かりやすい違いがポッド有無ですね。ポッドハーネスは足元が風に晒されず包まれた形状のため、ポッドならぬ「ホット」ハーネスなんて呼ぶ方もいますね。今やのんびりフライト派の私も、ポッドハーネスを選ぶ最大のメリットが暖かさだったりします。

ポッドハーネスの生い立ち

ポッドハーネスは、もちろん暖かく飛ぶことを主目的にして生まれたわけではなく、空力特性の向上を目指して生まれたものです。ハーネスに限らず、パラグライダーの機材の進化の大きな方向性として、空力特性(性能)と安全性の向上の2本柱があり、これはお互い相反することも多いのですが、そのバランスを取りながらも着実に進化を続けています。ポッドハーネスはレースなどで早く遠くへ飛ぶ性能向上を目的に生まれ、いっぽうの安全性は落ちているという認識です。安全性の観点では、テイクオフやランディング時の足の出し入れなど空中作業で余計なリスクが発生してしまうことは分かりやすいですね。それ以外にも、寝そべった飛び方ですとキャノピーの捻じれ発生時にライザーがツイストしやすかったり、下方向の視界(視野)が減少するとか、実はデメリットがいろいろあります。ポッドハーネスのデメリットは、パラグライダーの旧クラス分けで有名なDHVのテスト記事が出ています。DHV Hanggliding and Paragliding in Germany: Pod harness test

The latest pod harnesses are generally very expensive, are heavy and voluminous, more complicated to setup and adjust, and require more attention to detail when checking for airworthiness due to their complexity and the use of fiddly components. In addition, pod harnesses can hinder pilots during takeoff and severely influence (increased twist danger) reactions to collapses and extreme flight manoeuvres.

最新のポッド ハーネスは、一般的に非常に高価で、重くてかさばり、セットアップと調整がより複雑であり、その複雑さと扱いにくいコンポーネントの使用により、耐空性をチェックする際に細部にまで注意を払う必要があります。さらに、ポッド ハーネスは、離陸時にパイロットの妨げになり、崩壊や極端な飛行操作に対する反応に深刻な影響を与える (ねじれの危険性が高まる) 可能性があります。 【Google翻訳

このようなデメリットがある中で、性能向上されたとだけ言われても、どのような飛び方の時にどれくらい良くなったかを知らないと検討できないですよね。客観的で定量的な指標が無いと、食品や薬なんかの誇大広告と同じになってしまいます。

ポッドハーネスの空力特性

まず、直線グライドしている時以外はポッドハーネスの空力特性のメリットはあまり無いと言われています。10年以上前にエビデンスとなる風洞実験のデータを見たのですが、Webをざっと探してみてもソースが出てこなく、これは見つかったら改めて記録しておこうと思います。

では、グライド時はどの程度かというと、こちらは風洞ではなく数値シミュレーションで計算されているデータがありました。

専門機関による研究という訳ではなく、パラグライダー好きの有志による研究なのですが、ハーネスによる空力特性の変化を調べた有用な情報です。ここでは、ポッドハーネスをさらに細分化して、後方がシンプルなCocoonハーネスと、後方も流線形にしたFairingハーネスに分け、全部で3種類の比較をしています。今回購入したKittoハーネスはCocoon型のポッドハーネスですね。前回記事「パラグライダー J1リーグとKittoハーネス新調 - 空と山と暮らし」で取り上げましたOZONEのサブマリンハーネスはFairingハーネスです。

この3種類のハーネスと人体モデルを作成してシミュレーションされていますが、計算のための3Dメッシュの作成に苦労している様子です。実は私の修論も、数値風洞シミュレーションにおけるメッシュ自動最適化をテーマの1つにしており、昔からこの辺りは苦労があるのですが、20年以上経ちコンピュータの性能が飛躍的に向上した今でも最小メッシュで力業で解くようなことはしないようですね。苦労されたシミュレーション結果を公開頂いていることに感謝します。

さて、そのシミュレーションですが、3種類のハーネスタイプごとに両手を閉じる/開く体勢で6パターンを実施されています。速度域は以下3つの速度で測定しています。

  • 10 m/s (36 km/h) - トリム速度(通常速度、巡航速度)
  • 16 m/s (58 km/h) - アクセルバー使用時の速度
  • 20 m/s (70 km/h) - 競技用グライダーのフルアクセル速度

jhorv_th, Paraglider harness type comparison 5.1 Drag force chart

縦軸に抗力(後ろに引っ張られる力)を取っており、どの速度域でも通常ノーマルハーネス(Normal) → ポッドハーネス(Cocoon) → ポッドハーネス(Fairing)と抗力が低下していることが分かります。素晴らしいのは、ハーネスの差異以上に両手の開き方で抗力が変わるという視点です。確かに抗力は、Normal(両手閉じ) < Cocoon(両手開き)、Cocoon(両手閉じ) < Fairing(両手開き)になっています。滑空するときは手の位置に注意ですね。

さて、抗力の違いでどの程度の飛びの差になるのかは、風洞実験での別の資料(Cross Country 169: May 2016 | Cross Country Magazine)を参照されていました。

GO FURTHER: HOW MUCH DOES A POD HARNESS HELP? - Cross Country Magazine

シミュレーション上ではこれより抗力の差が少なくなっているようで、それを差し引いて考える必要はありますが、良い目安になると思います。ハーネスにより滑空比はNormal=8.0、Cocoon=9.8、Fairing=10.2となり、2000mから滑空した時の到達距離の差は、Normal→Cocoonで+3.6km、Cocoon→Fairingで+0.8kmとなります。やはりNormal→Cocoonハーネスへの違いが大きいようですね。朝霧でのんびりフライトするだけであればどれでも良いのですが、Cocoonで良いかなという印象です。

一方、混戦レースではFairingのL/D +0.4が大きな差になると思います。フライト性能というとグライダーばかりが注目されがちですが、ハーネスの影響も無視できませんね。グライダーがOZONE横並びになった今、Fairingの次の新ステージのポテンシャルを持つサブマリンハーネスが注目されるのも分かる気がします。

新ハーネスの初飛び

さて、そんなCocoonタイプのKittoハーネスの初飛びのテイクオフです。試乗も講習バーンでの事前練習もせず、いきなり新ハーネスでの本番フライトで少し緊張しました。シミュレータで調整していましたが、飛びながらリクライニング角度を最終調整して、フィッティング完了です。

Kittoハーネスにして、今まで以上にハーネスに包まれる感じがあるのと、軽量化のおかげか浮きが良くなったような気がするようなしないような。1点、体重移動が掛けにくいような感じでしたので、これは後日相談してみようかな。全体としては良いハーネス、長く使えるといいな~。